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新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 参
”Folklore of the new adaptation no.5 : Karouto Yuraitan 3”
- oil on canvas, acrylic paint,1167×727mm
”新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 参”
- キャンバスに油彩、アクリル
2021
個人蔵
Private collection
- oil on canvas, acrylic paint,1167×727mm
”新訳風土記集 其ノ伍 唐櫃由来譚 参”
- キャンバスに油彩、アクリル
2021
個人蔵
Private collection
詳細情報
村に越してきた頃、まだ”少女”だった私は、周囲に上手く溶け込めずにいた。
同級生や近所からの好奇の眼差しに居た堪れず、学校が終わるとすぐさま、村の人たちみんなが忌み嫌う裏の森に逃げ込む毎日だった。
その森は熊が出るとかどうとかで危ないから、一人で入ってはいけないと聞いたことがあったが、私にとっては人間に会わない静かな環境に身を置く方が重要に思えた。
熊に遭ってみるのもまあ悪くはないかな、と心の中で嘯いてすらいた。
そうして、日が暮れてチャイムが鳴るまで、誰にも私の姿を見られない様に過ごした。
兄弟の無い私にとっては、独り遊びは淋しくもなんともなく、むしろ街に居た時からだから、慣れたものだった。
人々の中で傷つくよりも、孤独で満たされる方が遥かに心地が良かったことを今でも思い出す。
ただ、本当に私がその森で独りきりだったのかと言うと、実際のところはそうでもなかったのかもしれない。
そう、今だから言えることだが、独りで森に居る時、私は、常に何かの存在を感じていた。
息遣いを感じていた。
確かめる術はなく、またその疑いを共有できる相手もいなかったので、私は放置して、それらに包まれていた。